弘山勉のブログ
計算式を使ったトレーニング処方の考え方(乳酸に着目して)
投稿日: 2016年 10月 28日 金曜日
ブログ更新が久しぶりとなってしまいました。前回、『3.333分の1の法則』ということで書かせていただきましたが、今回は、その活用含めて、少し中身を書いてみたいと思います。
おさらいしますが、前のブログで、1500m~1万mの距離で発生する血中乳酸の量から以下の数値(数式)を示してみました。
【5000m】
「0.9÷7.666=0.117」
⇒1500mを3分50秒で走れるとして、3分50秒×3.333=12分47秒
⇒12分47秒×1.117=14分27秒
【10000m】
「0.15÷2.5=0.06」
⇒3000mを8分30秒で走れるとして、8分30秒×3.333=28分20秒
⇒28分20秒×1.06=30分02秒
その意味は、下図の通りです。
Aは、長距離走の“ある距離”とペースにおけるの乳酸発生量(乳酸の産生と消費のバランス)を示しています。長距離の練習をよく積むとAの値は下がっていきます。簡単に言うと、乳酸が産生できなくなっていきます(より乳酸を消費できるようになる?)。つまりは、スピード能力が下がっていくことを意味します。Bの乳酸発生能力や乳酸の発生に耐える能力が低くなります。
長い距離の練習ばかりすると、1500mを速く走れなくなるなどが例として挙げられます。
それは、速筋を使うトレーニングが減少するために、速筋が萎縮したり、減ったり、中間筋が遅筋化したりすることに起因します。つまりは、速筋のミトコンドリアが減ったりすることで、解糖系のエネルギー代謝回路(能力)が減少し、乳酸そのものが産生できなくなります。乳酸が出せないのですから、速く走れるわけありません。
長距離タイプに多いのがこのパターンで、乳酸が出せない代わりに、長持ちする。速くは走れないけど、遅筋は鍛えているので、長くは走れるというというものです。
前述の通り、Bは、中距離の乳酸産生能力を指しますが、Bの値が大きいほどスピード能力があると考えていいと思います。「乳酸はたくさん出せるけど、遅い選手がいるじゃないか」と指摘されるかもしれませんが、乳酸がたくさん出せることはスピード走にとって欠かせない能力です。最も大切と言っても過言ではなく、速く走れないのは、他の能力が足りなかったり、フォームが非効率的だったりするからであり、可能性は高まります。
Aの値が小さくなるか、Bの値が高くなると、Cの値が小さくなります。長距離の記録は伸びることを意味します。
しかし、後述の通り、現実的には、Aの値を下げるトレーニングばかりするとBも同時に下がります。Bを上げるトレーニングばかり積むとAが上昇してしまいます。経験的に、極端に偏ったトレーニングをするとCの値は、結果的には横ばいか上昇(パフォーマンスが低下)してしまうと感じています。
今回示した計算式(値) 5000m 0.117 1万m 0.06は、トレーニングの考え方のヒントになればと思ったからです。ここからは、5000mを例に挙げて説明してきます。
例えば、5000mを14分00秒で走りたいと考えた場合
1000mを2分48秒ペースで走ったときの乳酸がどれくらい発生しているかを調べます(感覚でも十分です)。2000mくらいの距離で計測したほうがよいかもしれません。
仮に 5mmol だったとすると、1000m当たりで除すと1.0mmol になりますから、(1.0÷0.117×1.5=12.82) 1500mを走った場合に、12.82mmol の乳酸を出せないと14分00秒で走れない計算となります。
しかし、実際には、1500mを全力で走っても9.0mmol しか乳酸を出せなかったとします。さあ、どうしますか?という問題を解いて、答えを導き出してトレーニングを処方していかなければなりません。
長距離の走トレーニングには、三つの考え方があると思います。(5000mはもはや中距離?かもしれませんが)
①長距離型
乳酸が増えていかないLTレベル付近で持続走トレーニングを増量する、または、頻度を高める(繰り返す)。スピードは出せなくても良いが、持続可能にする。遅筋を徹底的に使い、遅筋内のミトコンドリアを増やすなどAの値を下げることを目指す。
②中間型
5.0の乳酸が増えないように、持続練習を重ねる。2分48秒前後のペースで何度も走ることを繰り返す。そのペースで乳酸値を維持(乳酸を消費?)できるようにすれば、乳酸の上昇は抑える能力を養います。つまり、Cの係数レベルでペースを算出し、距離を短くしてトレーニングすることを繰り返します。その強度付近の能力を高めるということです。
③中距離型
中距離走の能力を高め、乳酸の限界値を引き上げます。つまり、Bの値を高めるトレーニングをして、長距離走における余裕度を引き上げます。
①~③のトレーニングはどれも必要です。実際、誰もが、この3種類のトレーニングを組み合わせてメニューを組んでいるはずです。最終的には、②中間型の実践トレーニングレベルを上げることが記録に直結すると思います。
トレーニングの順番としては、やはり、Bの値を上げて、次に、Aを下げて、Cを下げていくことがポイントだと思いますが、これは身体能力や身体機能のタイプによって変わりますし、時期や年齢などでも変わってくるでしょう。だからこそ、「100人いたら練習は100通り」と言われるわけです。
ですから、チームで活動している場合には、各個人がどれだけアレンジしたり工夫したりできるかにかかっているのです。「計算する」「考える」「実践する」「工夫する」「修正する」などの工程そのものが競技であり、ここを楽しめるかどうかです。競技が面白いかつまらないかの分かれ道は、そんなところにあるような気がします。
いづれにせよ、Cが下がったときこそが、狙った記録に直結するトレーニングができる時です。その状態を目指して考えていただければと思います。
長々と書いてしまいましたが、結局のところ、1500mの記録を上げることで5000mの記録は上がります。計算式を変えると5000mを14分00秒で走るために必要な1500mの数字がわかります。
14分00秒×1/1.117÷3.3333=3分45秒6
1500mを3分45秒で走れたら、5000mはもっと速く走れそうですが、長距離の練習を多くしない場合では何となく合っていそう(なので、大目に見てください)。この1500mの走力を落とさずに5000m寄りの練習をしていくと14分00秒の記録をどんどん伸ばしていくことができるのだと思います。
近年、1500mを走る選手が減ってきているように感じるので、乳酸をネタにして、書いてみました。1500mの記録を伸ばす取り組みをしていけば、まだまだ記録を伸ばせる選手はたくさんいると思います。その気になってくれたら幸いです。
(※示した計算式は、筋量が豊かで高い筋力を有する男子選手に当てはまります。その点は、ご容赦ください。)
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