弘山勉のブログ
前傾姿勢の王者『ヒシャム・エルゲルージ(1500m世界記録保持者)』凄さの理由①
投稿日: 2018年 7月 14日 土曜日
今回取り上げるのは、前回、約束した通り、ヒシャム・エルゲルージ(モロッコ)です。どれだけ凄い選手であるかは、1500mの世界記録保持者(3分26秒00)であり、説明不要だと思いますが、引退から10年以上は経過しているので、若い世代の人は、走りを知らないかもしれませんね。私が最も尊敬するランナーです。偉大な経歴(競技成績)の持ち主というだけではなく、フロントランナーであること、引退後は慈善活動に積極的に取り組んでいることが、私が尊敬する(憧れる)理由でもあります。
そんな陸上競技・中長距離界の英雄を私がブログで取り上げるのは恐縮しますが、どうかご容赦いただきたい。
ストライドとピッチのことを交えた内容になるので、その凄さを語るために、比較の意味で、短距離界の英雄であるウサイン・ボルトのことを先に記してみます。
ウサイン・ボルトのトップスピード時のストライドは、2.75メートルになると言います。これは身長の1.4倍に相当する長さになります。おそらく回転数(ピッチ)を上げないといけない短距離では、群を抜く数値だと素人ながらに思うわけですが、身長(脚長)も関係することなので、見解は短距離の専門家に委ねるしかありません。
<参考資料>
ボルトの一歩、最大2.75メートル 速さの理由を分析(朝日新聞デジタル)
一方のピッチはどうか?というと、トップスピード時は1秒間の回転数が4くらいになるそうです。1秒間に4回転は、おそらく極限に近い数字のはず。あの大きな身体を操って1秒間に4歩も進ませることができる技術と筋力は、天性の素質だけで成し遂げられるものではなく、やはり努力の賜物でしかないと思います。
という短距離走での限界数値を比較対象として挙げて、ここから中長距離の話に移ります。
すでに2006年に引退しているヒシャム・エルゲルージ。レース途中から先頭に躍り出て、そのまま先頭を譲らずにゴールする彼のパフォーマンスは、観ている者を魅了します。力で捻じ伏せる競技スタイルは王者の称号を与えられるに相応しいと思います。
彼の何が凄いのか?というと、深い前傾姿勢から繰り出す大きなストライドで圧巻のスピード持続力を誇るところです。
その凄さを語るために、まずは、少し数字の例を挙げてみます。
1998世界選手権の1500mで3分27秒65をマークし優勝した際、1100~1200mの曲線走路を42歩で走破しています。計算すると、ストライドは、2.38メートルになり、身長の1.35倍にも相当します。この間の100mが13.0秒なので、1秒間に3.23回転している計算です。
その後、ラストスパートを仕掛けた1200~1300mの直線走路の100mを44歩で走破しています。計算するとそのストライドは、2.27メートルで身長の1.29倍に小さくなっていますが、この数値でも破格の大きさです。この間の100mは12.6秒なので、1秒間に3.33回転している計算になります。
前傾姿勢を維持して大きなストライドのままピッチを高める芸当は、なかなかできるものではありません。普通に考えて無理です。というのも、脚の回転を速めるためには、脚の後ろからの引き付けと前方への引き上げが必要で、その動作をしやすくするために、普通は、同側の上体は後傾させるような動きを伴うからです。前傾したままストライドを広げて、さらに速く動かすことは驚異的と言っていいでしょう。(②に続く)
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