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弘山勉のブログ

前傾姿勢の王者『ヒシャム・エルゲルージ(1500m世界記録保持者)』凄さの理由②

投稿日: 2018年 7月 14日 土曜日

レースを観ると、1200mでギアチェンジしているのがわかりますが、若干ストライドを狭め、ピッチを高めてスピードを出していることがわかります。見た目の話になりますが、上に跳ぶよりも沈み込みを大きくして、出力を上げているようです。

それは、彼の走りの特徴に起因しています。ここまで深い前傾姿勢を保ちながら走る選手は、ほとんど見かけません。「上体を前傾させろ」とは、よく耳にしますが、実は、前傾姿勢を深くするとメリットとデメリットが生じます。

<メリット>
少ないエネルギーで重心移動が可能
重い頭部と胴体が前に倒れる力を利用できるので、(足の着く位置次第では)少ない労力で走ることができる。

股関節を屈曲させやすい
胴体を前に倒すだけで股関節は屈曲します。膝が屈曲する状態で地面を捕らえると、さらに深い股関節の屈曲状態を作り出すことができ、大きな力を発揮できる可能性が高まります。

<デメリット>
上半身の捻転動作ができにくい
上体を前に倒した状態で捻転動作をすることは困難です。肩を揺するような回転運動になるのがオチです。実際にやってみるとおわかりいただけるでしょう。

お尻が突き出て重心が下がる
腰が折れ曲がりやすいので、お尻を突き出すような恰好になりますから、重心が下がります。膝を曲げなければ重心を高く保てますが、それでは、走ることは難しくなります。

腰の動きが出せない
上半身の捻転運動ができないこととお尻を突き出すような姿勢では腰の動きは期待できないことは、想像すればわかると思います。ですから、全身の動きの連動というよりも、どちらかというと重心移動と(腰を折り曲げることによる)股関節の屈伸運動を利用した力発揮となります。

これらメリットとデメリットを挙げましたが、エルゲルージにも、これら両方の特徴が出ています。前述した1200mまでは、少し上方へ跳んでいるので、重心は低く感じませんが、スパートを仕掛けた後は明らかに重心が下がっています。パワーの源である股関節の屈曲を作り出すために、膝関節も曲げているからです。

そもそも、どうしてこんなに大きなストライドを繰り出せるのか?いくつか理由は考えられます。

①深い前傾姿勢から膝を曲げた状態でも、かなり前方に接地できる
②重心移動(胴体を前に移動)させながら進むことができる
③膝が伸び切るまで地面を押すことができる
④伸縮の幅が非常に大きい

※①~④を成し遂げるために、前傾姿勢の場合い通常は困難な上半身の捻転動作をして腰(骨盤)の動きを出しています。腰の回転は弱いですが、これはお尻を突き出しているので、速く走る場合は不可能と言っておきます。

アフリカ系の女性長距離選手に多い走りを想像してみてください。腰を反り、前傾姿勢で走るフォームです。大抵は、腕を抱えて肩を揺するような動きをします。上半身の捻転動作はできません。これが普通です。

しかし、エルゲルージは、腕を抱えることなく前後にしっかりと振っています。肩甲骨もしっかりと動かせています。腰の回転は小さくとも、骨盤を動かし大腿骨を力強く押し込んで走ります。大腿骨を押し込みながら同側の上半身を腕とともに前方へ動かしているのが特徴的です。

上下の半身を捻転させて走る動作には、2つのタイプがあります。

A:片腕を引きながら反対側の脚で地面を押す
B:片側の脚で地面を押しながら同側の腕を前に出す

上記のどちらでも捻転動作が可能です。エルゲルージはBパターンの動作をしているように見えます。Bの動作の場合、胴体を前に運ぶ動作になりやすいと思います。私も現役のときは、Bの動きを意識して走っていました。面白いことに、私も重心が低い走りでした。エルゲルージには遠く及ばないフォームですが(笑)。

位置エネルギーの利用という観点からは、重心の高さは必要不可欠だと思いますが、そこまで高くなくとも推進力を高める動きは可能だということをエルゲルージは証明しています。と言っても、誰も真似できませんが・・・。

一応、付け加えさせていただくと、接地タイプとしては、“ミッドフット”です。まあ、この動きで速く走ろうとしたら、フォアフットになりようがないと思います。足関節を背屈から底屈する動きを利用して骨盤を動かしているのは“お見事!”と言うしかありません。ただただ感嘆するばかりです。

YouTubeにエルゲルージのレース動画がたくさん掲載されていますので、是非ともご覧になって、皆さん、感嘆の声を上げてください(笑)。


前傾姿勢の王者『ヒシャム・エルゲルージ(1500m世界記録保持者)』凄さの理由