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弘山勉のブログ

スピードランナーへの近道~速筋の鍛練と乳酸~

投稿日: 2015年 7月 6日 月曜日

一昔前は、疲労の源として「悪者」扱いされていたエネルギー代謝物質である『乳酸』。その認識が見直されつつあります。

それは、糖質が代謝されエネルギーを生み出す過程(ATP回路)で産生される乳酸は、エネルギーとして再利用される(最終的に、水と二酸化炭素に分解)ことがわかってきたからです。

無酸素運動(嫌気的運動)時、つまり、速筋を大いに使う高速運動や高強度の抗重力運動をした場合に、乳酸は大量に発生します。乳酸が筋肉に蓄積されていくと組織が酸性に傾き、筋肉の働きが抑制されるという弊害が伴います。だから、悪者として見られてきたわけです。

間違ってはいけないのは、再利用されるからと言って、たくさん蓄積されると筋肉が動かなくなるという概念は変わらないということ。

現在、エボーリュ所属のアスリートである中村が、過日終了した日本選手権に向けて、この乳酸と闘ってハードトレーニングを積んできました。結果は、表彰台を僅かに逃す4位でした。彼は、実は、前々年と前年でも4位となっていましたから、「今回こそは!」と様々な取り込みをしてきました。

400m~1500mという種目は、乳酸が溜まって動かない身体を無理矢理動かす苦しい練習を繰り返し行うのですが、インターバルの休息中に「気持ち悪い。吐きそうです」となることは日常茶飯事。心優しい私は、「もう終わりにしてあげたい」と思ってしまうのですが、心を鬼にして、練習を課しています(笑)。

IMG_1354

これら身体の反応は、脳やカラダを守るためと言われています。自分の意思で上限なく運動の強度を高めることができるとしたら、意思の強さが競技力になってきますし、カラダは破壊される一方です。身体のメカニズムは、自らの意思とは別次元で機能しているのです。「カラダの保護機能に対抗するのが、トレーニングである」と言っても過言ではないと私は思っています。

なぜ、こんな苦しい練習をするのでしょうか? 主に以下のトレーニング効果獲得が目的としているからです。

— 主に中距離走に該当しますが、長距離走といえども、最初のスタートダッシュやレース途中や最後のスパートの場面では同じことが言えます—

〇LT値(乳酸閾値)〇

知っている方、多くいらっしゃると思いますが、ランニングのスピードを徐々に上げていくと乳酸が急に多く発生するポイント(走速度)があり、これをLT値と言います。

このLT値を簡単に説明すると、これ以上スピードを上げると、どんどん息が苦しくなっていくポイント(速度)のようなものです(酸素摂取量ともほぼ比例している)。

第1回アミノバリュー記事挿入イメージ図③

走力に関係する様々な体力や身体機能を向上させることで、LT値となる走速度を高めることができます。同じ速度で走った場合、乳酸の発生が少ないほうが断然有利というわけです。(OBLAという概念が実践的ですが、これについては、また今度、書きたいと思います)

◯耐乳酸能力◯

簡単に言うと、「筋肉中や身体全体で、どれだけの乳酸を溜めることができるか?」という運動器としての貯蓄量と「乳酸が限界値まで溜まった飽和状態で、どれだけ筋肉を動かし続けることができるか?」という運動機能としての能力を指しています。つまりは、

① 自らの意思で筋肉を動かせる限界ギリギリの乳酸蓄積のキャパ(容量)を増やすこと
② 同じ乳酸蓄積量でも、速く または 力強く筋肉を動かす能力を高めること

①は、筋肉量を増やすとキャパは増えるのですが、中長距離の場合は、筋肉のいたずらな増量は不利になる場合があるので、難しいのです。だから、イメージとしては②になり、耐乳酸能力を高めるために、乳酸蓄積量限界ギリギリ、いや、それ以上の強度でトレーニングをするしかないわけです。う~ん、厳しい世界だ・・・(この過酷な練習は、見ているだけでも本当に辛いです)。

◯中間筋繊維◯

ヒトの筋肉には、通称「中間筋」と言われる筋肉が何%かあります。この筋繊維は、本来は速筋なのですが、トレーニングによって遅筋にもなりえます(正しくは、性質に近づくというニュアンス)。その中間筋を速筋と遅筋のどちらの特性にするか?これもトレーニングの重要な狙いになります。

これは、タイプによりますね。中距離走のようなスピードが求められる競技では、速筋が少ない選手は、中間筋を速筋寄りに傾けるしかありません。速筋が多いマラソン選手は、その逆で、遅筋寄りに傾けることになります。「マラソン練習をするとスピードがなくなる」と言われる理由でもあります。

第1回アミノバリュー記事挿入イメージ図①

◯乳酸再利用能力◯

乳酸をエネルギーとして再利用するのは、主に遅筋と言われています。したがって、中距離走のレース場面では、乳酸を再利用する代謝回路はあまり機能しないかもしれません(何となくの想像)。

しかし、遅筋をより働かせる長距離走では、乳酸はエネルギーとなりえます。ただし、このエネルギー代謝回路は、トレーニングしないと機能は向上しません(ミトコンドリアの増量など)。

とくに、スピードを上げて走るには、そのためのトレーニングが必要です。マラソン選手でも積極的に乳酸を発生させて、利用するというトレーニングを積んだほうが良いと思います。

先日行われた日本選手権の男子1万mで優勝した旭化成の鎧坂選手が、「ロング走を減らして、スピード練習をたくさん取り入れてパフォーマンスが上がった」という記事が出て話題になっています。トレーニングの詳細を知らないので、一概には言えませんが、こうした一連の「糖代謝メカニズムと筋肉の発達(ミトコンドリア増加)」に起因していると私は推察しています。

そこで、中村が実施した取り組みの一つを紹介します。

あるスポーツ科学の研究者から面白いデータを紹介していただきました。『BCAAを摂取すると乳酸の上昇を抑えられる』というのです。筋肉が、BCAAをエネルギー源として利用できるのが理由です。イメージ図を作成してみました。

第1回アミノバリュー記事挿入イメージ図②

そのためには、運動前に2000mmg以上、運動中はこまめに摂取することがポイントとなります。『BCAA血中濃度を高めるために有効な一度に摂取する量が2000mmg以上』らしく、この数字にも実験による裏付けがあります。

ちなみに、ハーフマラソンで消費するBCAAの量は、推定7200mmgだそうですよ!フルマラソンは、その倍??

BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)は、体内で作り出せない必須アミノ酸ですから、補給するしかないということです。

そう考えると、中長距離走のレースで「簡単な記録短縮の方法」として単純な発想が浮かんできます。

中長距離のパフォーマンスを高めるためには、スピード練習を積極的に取り入れて速筋を鍛えながら、ATP回路を発達させて乳酸が出せるスピードランナーに近づけていくことが求められます。(ジュニア世代から長い距離を走る練習をする傾向にあり、乳酸を出せないスピード不足のアスリート・ランナーが増えている)

その際、高強度のスピード練習前と練習中にBCAAを積極的に摂取することで、乳酸の発生を抑えて速く長く走り続けることができるというものです。つまり、速筋を鍛えやすくなります。

「BCAAを摂取しながらのトレーニングで、速筋をガンガン鍛え、レース前やレース中にもBCAAを摂取することで乳酸の発生を抑え、パファーマンスの向上が期待できる」と考えます。

単純過ぎますかね!? でも、上手くいくような気がして実践してみました。

第1回アミノバリュー記事挿入イメージ図④

さて、BCAAを積極的に摂取しながらトレーニングを実施した中村ですが、日本選手権の表彰台に上がることはできませんでした。しかし、従来よりもかなり厳しいトレーニングをいつもより多く積むことができました。そういう意味で効果は感じています。

トレーニングの手応えでは、軽く自己記録を更新できる状態だったのですが・・・。疲労が少し残ったのかもしれません。

ただし、悪天候下で400mを52秒6で通過(湿度と空気抵抗を考慮すると51秒台の価値)したにもかかわらず、かなり余裕があったらしく、今回の取り組みとトレーニングの成果は実感できています。調整方法なのか? 思ったほど伸びなかった後半部分のトレーニングの工夫なのか? そのあたりのことを考えて、中村を日本一に近づけていきたいと思っています。

「競技(スポーツ現場)」と「スポーツ科学」「スポーツ栄養学」の連携・融合に向けて、引き続きアスリートLabは挑戦していきます。

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