弘山勉のブログ

マラソンとランニングエコノミー ~筋肉編~

投稿日: 2016年 2月 16日 火曜日

前回、ベースとなるスピード走能力を高めることが、結局はランニングエコノミー度を向上させることになると書きました。では、スピードの源は何でしょう。それは筋肉に他なりません。

スピードや効率は、筋肉をどう動かして、それぞれの関節や身体部位をどうコントロールするかで決まってきます。「筋肉を速く収縮させる」「筋出力を高くする」、さらには、「筋肉を自在に動かせる」ことがスピードに関係します。当然、ランニングエコノミーにも深く関係します。

筋肉について語るのに、筋繊維タイプから説明しましょう。骨格筋繊維はその特性により、速筋繊維(タイプⅡ繊維)と遅筋繊維(タイプⅠ繊維)に分類されます。速筋繊維は、さらに、タイプⅡa(遅筋の性質に近い)とタイプⅡbに分かれます。

持久的なトレーニングを継続していくと、「タイプⅡb」⇒「タイプⅡa」⇒「タイプⅠ」という流れで変化していくと言われています。タイプⅠまで変化すると書かれている文献は少ないとは思いますが、簡単に言うと、速筋の遅筋化ということを意味しています。筋肉がより長く働き続けるために、筋肉が自らの特性を変化させるのです。

筋繊維の遅筋化

ヒトが持つ“恒常性”という性質を利用しているわけですが、これには長時間に渡って走り続けるか、インターバルを何本もこなす必要があります。「走り続ける(筋肉が動き続ける)ことが普通の状況」だとカラダを勘違いさせるくらいに、たくさん走らなくてはいけないので、大変な労力になることは想像に難くありません。

速筋が遅筋化すると持久力が向上するのでしょうか?

つまりは、「ランニングエコノミーが向上するのか?」ということ。そこを考えてみたいと思います。

速筋が遅筋化するとランニングエコノミーに関わる良いことがあります。

遅筋は主に有酸素運動を担いますから、有酸素運動の場合は、主に遅筋繊維が動員されます。有酸素トレーニングをすればするほど、遅筋を使えば使うほど、遅筋が有するミトコンドリアやミオグロビン、毛細血管が増えていきます(ただし、ミトコンドリアは、厳しいトレーニングをしないと増えないと思います)。ミトコンドリア内にある「クエン酸回路」を経由してATPが産生されるわけですから、ミトコンドリアが増えるほどにエネルギーをたくさん産生することができるようになります。

ミオグロビンとは、ヘモグロビンと同じヘム蛋白で、心筋や骨格筋などの遅筋細胞に存在し、酸素を運搬し、貯蔵する役割を果たします。つまりは、筋肉でのエネルギー(ATP)産生を手助けしているのです。

毛細血管は、L.S.Dをすると増えると言われているように、血流が緩やかに長時間流れるような状況が好ましいのかもしれません。

一般的には、筋肉組織のミトコンドリア、ミオグロビン、毛細血管の発達、それらの量が多いと持久的な走能力は高くなるのが普通です。

一方で、速筋を遅筋化させるとランニングエコノミーに関わる悪いこともあります。

遅筋はパワー(スピード)発揮には向きませんから、筋繊維の遅筋の割合が増えると、当然、速いペースで走れなくなります。「持続はできるが、速く走れない」「ラストスパートでも負ける」 これは、長距離ランナーの典型ですね(笑)。

私は、高校時代、中距離種目を専門にしていましたが、大学に進学して箱根駅伝に向けたトレーニングを重ねるにしたがいスピードが出せなくなりました。記録会で800mのペースメーカーを務めるはずが、先頭に立つことさえできないという恥ずかしい経験をしたことがありました。

まさしく、これが筋肉の遅筋化です。速筋が少なくなったり、速筋の割合が小さくなったりするとスピード(パワー)を出せなくなります。

主な理由は、持久的なトレーニングばかり積むと乳酸が出せないカラダになるからです。それは、速筋の筋繊維が減少することに起因するというより、速筋のミトコンドリアが減ることが主な要因だと思います。無酸素運動に必要なエネルギーを生産する工場がなくなるようなものですから、無酸素運動そのものができなくなるのは至極当然でしょう。

そうなると、速いペースを追走するような場合には、パワー発揮度を高めないといけなくなります。ペースによっては相当な無理を強いられます。スピードに余裕がなくなると、通常は余分な力を入れて走らざるをえません。“力み”は正常な動きを妨げますから、ますます速く走れなくなるという悪循環に陥るというわけです。

こう書けばおわかりだと思いますが、速筋を遅筋化させてしまうと速いペースでのランニングエコノミーは、まったく期待できなくなります自分が「目標とする記録に必要なペース」で楽に走ることができる速筋レベルを保つ、または、そのレベルに高めることが必要です。

マラソンと言えど、速筋が乳酸を出せる状態を保つこともまた必要です。速筋が出す乳酸をエネルギー源として利用できるのが遅筋です。このエネルギー代謝回路を刺激しておくのもレース対策としては重要です。マラソンを狙う上でも、スピード練習が重要な役割を果たすことがわかっていただけたでしょうか。

速筋を鍛えておくことや速筋の割合を減らさないで、遅筋のエネルギー産生能力を高めることがパフォーマンス(記録)を向上させる(勝つための)ランニングエコノミーなのです

ただし、この両立は長距離の場合は難しい。速筋と遅筋の両方を同時に発達させるのは、ひじょうに困難と言っていいでしょう。それくらい矛盾する領域です。

だから、トレーニングの期分けが必要となります。普通は、筋力を高めて(速筋を鍛えて)から持久力養成という順番がセオリーです。持久的なトレーニングは、かなりの工夫をしない限り、筋肉量を減らし、筋力を低下させるのが普通ですから。

また、減量が持久的なパフォーマンスを簡単に高めるのはよく耳にします。その理由は、前回に書いた通りです。

しかし、高いパフォーマンスという観点では、注意が必要です。それは、減量するとスピードの源である筋肉まで減ってしまうからです。筋肉に着目して減量するとパフォーマンスの低下を防ぐことができます。

これは私の持論ですが(弘山晴美もこのパターンを通しました)、

春と秋にベストパフォーマンスを発揮する場合、冬と夏に少し体重を増やします(上限は3kgまででしょうか)。長距離選手の場合は、筋トレをしても合理的な筋肉増量や筋力アップは、なかなか図れません。自分の体重を増やしてトレーニング(と生活)することで、自然と筋肉増量と筋力アップがなされると思っています。

太った状態でトレーニングを継続し、狙ったレースが近づくにつれ、レベルの高いトレーニングに移行して、筋肉を減らさずに体脂肪を落としていけば、スピード持続型のカラダ作りができると思っています。

一年中ベスト体重である必要はまったくありません。スポーツ障害というリスクは伴いますので、あくまで、ご参考ということで記しておきます。

最後に筋肉の部位の話をします。

次回のフォームで書こうかと思っていましたが、敢えて、この回に入れます。日本人の多くは、たくさん走り過ぎるので、腰が動かない“足だけで走る”フォームになりがちです。足首を使うので、ふくらはぎが発達する傾向が強いですよね。それに比べて、アフリカの選手は、足首を使わない走りをするので、ふくらはぎの筋肉がほとんどありません。足首を固定するだけの筋力があれば十分とばかりに細いです。

足部慣性モーメント

慣性モーメントというエネルギー効率の観点では、末端部分(ふくらはぎ)が重いのはひじょうに不利です。アフリカの選手との走力の差は、「ふくらはぎの筋肉(の重さ)によるランニングエコノミーの差」と言っても過言ではないかもしれません。

以上、筋肉とランニングエコノミーの関係を思うがままに書いてみました。循環器(心臓や血管、血液)に関することも書こうと思いましたが、当たり前のことばかりになるので、やめておきます。

次回は、ランニングエコノミーに対する「フォーム(動き)」をテーマします。